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プロを目指すか、あきらめるか…『HOPE~期待ゼロの新入社員~』特別企画

11歳から22歳まで、一般の人が学生時代を過ごしている時期を囲碁に打ち込んでしまった。院生としてプロを目指したけど、試験には合格できなかった。

囲碁の勉強をするため、高校にも大学にもいかなかった。
年齢制限があるのでもうプロへの道は閉ざされてしまった。

学歴も職歴もないので一般的な企業はどこも雇ってくれない。

『HOPE~期待ゼロの新入社員~』で中島裕翔さんが演じる一ノ瀬歩はこんなにも悲惨な状態です。

これを見てどう思いますか?

気の毒?
愚か?
自分で選んだから仕方がない?
親は何をやっているのだ?

いろいろな感じ方があると思います。

プロを目指し続けるか、あきらめるかの分岐点はいろいろあります。

その時に『あなたならどうする?』という質問を投げかけます。
もし自分が院生だったらどうするかを考えてみてください。

今回のお話はヒカルの碁Hikaru No Go)のように順調に勝ち進んだスパースターではなく、一般的なありふれた才能の持ち主のお話です。

あなたの生い立ち

あなたの名前はA君。

東北に生まれ、小学1年生の時に囲碁を覚えました。
囲碁好きだった父からルールを手ほどきされ、近所の囲碁教室に通いました。

子供教室には10人ぐらいの生徒がいて、囲碁を楽しむことができました。

それまでにプールやピアノもやっていたのですが、囲碁が一番楽しかったのでやめました。

子供囲碁教室は土曜日だけでしたが、平日は大人とも打つことができます。
小学3年生の頃には週に4回も囲碁を打つために通いました。

囲碁が性に合ったのでしょうか、自分でも言うのは何ですが、メキメキと上達しました。

小学2年生で初段。3年生で三段になりました。

小学4年生の時に少年少女囲碁大会の予選で準優勝し、全国大会に出場することになりました。

2回戦で負けてしまいましたが、囲碁のおかげで東京に行けたのは楽しい思い出になりました。

全国大会とはいえ、同世代に2回戦で負けたのは悔しく、囲碁に一層打ち込みました。

通っている碁会所でも一番強くなり、相手に不自由するようになりました。
自分と同じくらいの相手がいなくなってしまったのです。

そんな時、次の少年少女囲碁大会がやってきました。

今度は県の予選を優勝で勝ち抜きました。全国大会では優勝を目指して頑張りました。

しかし準決勝で同じ小学5年生に負けてしまい、4位になりました。
とても悔しかったのですが、同時に『自分にもできる』という手ごたえも感じました。

そして『囲碁のプロ』という存在を意識しました。
碁会所にある雑誌や新聞に載っているプロはなんと囲碁で収入を得ているようです。

野球やサッカーのプロは有名ですが、囲碁のプロは日曜日のNHK杯にしか出てきません。でも賞金ランキングの1位は1億円近くもらっているようなのでめちゃめちゃ稼いでいるみたい。

『僕にもなれるのかな?できればなりたいな!』と思いました。

Question!

ここで問題です。

1)プロを目指すためには院生になるのが一般的です。自宅から日本棋院(院生の対局場所)は電車だと4時間、深夜バスだと6時間かかります。

あきらめる?自宅から院生に通う?東京に引っ越す?

2)院生になりました。義務教育なので小学校には通わなくてはいけません。授業中に何をする?

板書をノートに取る?詰碁を解く?

3)院生はA、B、C、D、Eの5クラスに分かれていました。
1番下のEクラスは楽に抜けられていたのですが、Dクラスで1か月足踏みしました。翌月はCクラスに上がれたのですが、すぐにDランクに落ちてしまいました。まだ12歳なので悪くはありませんが、トッププロになるのは難しいような気がします。

諦める?院生を続ける?

4)中学生になりました。中間テストや期末テストがあります。

テスト勉強する?しない?

5)台湾からすごく強い奴が来日しました。僕(13歳)よりも若い11歳です。Cクラスの時に対戦したのですが、負けてしまいました。
彼は一気にBクラスまで駆け上がり、今はAクラスです。
こういう人がタイトルを取るのでしょう。僕はまだCクラスが定位置。

院生を続ける?諦める?

6)中学3年生になりました。院生ではBクラスとCクラスを行ったり来たり。まわりは受験勉強をしています。

受験勉強する?囲碁に打ち込む?

7)修学旅行が院生手合のある土日に重なってしまいました。

行く?行かない?

8)12月になりました。まわりは高校に進学するのが一般的です。

進学する?しない?

9)17歳になってしまいました。院生は卒業です。最後の1年はAクラスから落ちませんでしたが、最後のプロ試験(2位まで入段)は5位でした。
来年も受験するとすれば外来で受けることになります。

受ける?受けない?

10)20歳の時、プロ試験を順調に勝ち進みました。最後の1局に勝てばプロになれたのですが、負けて不合格になってしまいました。今年次点でも来年受かるという保証はありません。チャンスはあと2回です。

受け続ける?あきらめる?

11)22歳になりました。最後のチャンスです。

受ける?受けない?

Answer!

ここからは回答編です。

学校のお勉強と違い、正解はありません。

『囲碁のプロになれなかった』という結果を知っていれば最初から挑戦しないのが正解かもしれませんが、未来は誰にも分りません。
挑戦しなければプロにはなれないのですから。

大人たちは『自分がやりたいことを職業にできるのは最高だ』とか『あきらめなければ夢は叶う』とか好き放題言います。

ちょっと(かなり)無責任な話だと思いますが、若いときに夢を追いかけ、一つのことに打ち込むのは素晴らしいと思います。
でもいろいろな困難に直面すると夢をあきらめるきっかけになる場合もあります。

問題に、自分なりに答えを出せましたか?

ここでは僕なりの答えを出します。
人生の正解はわかりません。
みんなで議論できたらいいなと思います。

1)プロを目指すためには院生になるのが一般的です。自宅から日本棋院(院生の対局場所)は電車だと4時間、深夜バスだと6時間かかります。

あきらめる?自宅から院生に通う?東京に引っ越す?

もし関東に住んでいればあまり問題ではないと思います。
部活をやる代わりに院生に通いましょう。
自宅から通えるなら自分の可能性に賭けたくなります。

もしプロになれないという未来がわかるなら院生なんかにならないんですけど、もしかしたらプロになれるかもしれません。院生になるためにはいろいろな方法があります。

あなたの場合は東北に住んでいるのがネックになります。
対局のたびに東京まで来るという手もありますが、金も時間もかかります。
前日か当日に移動するのも対局にはマイナスです。

小学生なので親も本人も離れて生活するのはキツイ。
このとき、『中学生まで待ってから院生になろう』という案は魅力的に見えます。
しかしこれは囲碁界の事情を理解していません。

本気でプロを目指すならある程度の棋力になっていれば早ければ早い方がいいです。
この『一般的な感覚と囲碁界特有の感覚のズレ』というのはここから何度も出てきます。

あなたは小学5年の時に上京するという選択をしました。
プロを目指すにはいい判断だと思います。

その場合、どのような選択肢があるのでしょうか。

家族ごと東京に引っ越せばいいのですが、父親の職業が転勤可能かどうかでも変わってきます。

当日に深夜バスで通う(将棋の女流棋士里見タイプ)は小学生には酷な移動ですし、

お父さんは地元に残り、お母さんと子供が上京(山下敬吾九段タイプ)は親が理解し、全力で応援してくれないと不可能です。

昔は院生の寮があったのですが、今はありません。

その代わりプロが寮を運営したり、自宅で内弟子を取っている場合もあります。
興味がある場合は調べてみてください。

あなたは寮に入ることになりました。
現状ではなかなかいい決断だと思います。

2)院生になりました。義務教育なので小学校には通わなくてはいけません。授業中に何をする?

板書をノートに取る?詰碁を解く?

東京に引っ越しして院生になりました。
平日は学校に行って土日は院生の対局です。

平日も学校から帰ってきたら囲碁の勉強します。

ここで問題なのは学校で何をするか。

『プロになれない可能性もあるので囲碁と勉強を両立する』という意見は立派なんですけど、なかなか理想的にはいきません。

授業中にできる囲碁の勉強は詰碁ぐらいでしょう。
事業中に詰碁を解くのは囲碁にとってはプラスですが、プロになれなかった場合は大いにマイナスです。

二兎を追うものは一兎も得ず と囲碁にまい進するか、
バランスをとって囲碁も勉強も頑張るか。

これは自分で選択するしかありません。

小、中学校に通わず、自宅で勉強するという手もありますが、義務教育に行かないというと一般の人に叩かれそうなのでやめました。(囲碁的には大正解。実際にいるらしいです。昔は多かったと聞きます)

3)院生はA、B、C、D、Eの5クラスに分かれていました。
1番下のEクラスは楽に抜けられていたのですが、Dクラスで1か月足踏みしました。翌月はCクラスに上がれたのですが、すぐにDランクに落ちてしまいました。まだ12歳なので悪くはありませんが、トッププロになるのは難しいような気がします。

諦める?院生を続ける?

一気にAクラスまで駆け上がってプロになれればいいんですけど、囲碁界はそれほど甘くありません。
Eクラスを抜けてDクラスで足踏みしたのはあまりよくありません。
プロにはなれるかもしれませんが、本人が思っている通り、トッププロになるのは難しそうです。

あなたが目指していたのは雑誌に載っていた、タイトルを取るようなトッププロです。
囲碁ファンを教えるレッスンプロではありません。

1年ぐらいすると自分のランクがわかってきます。

1:院生では連戦連勝。タイトル取れるトッププロ(上位2%)
2:プロにはなれるかもしれないが、タイトルは無理(上位20%)
3:プロになるのも無理かな?残念だけどあきらめよう(それ以外)

この場合、1と3は悩む必要はありません。

1は囲碁に打ち込み、3は院生をやめて地元に戻りましょう。

地元に戻るときにネックになるのが意外にも色紙です。

転校するときにクラスメイトが色紙に寄せ書きをしてくれます。

『頑張ってプロになれよ』とか『東京のやつらに負けるな』とか書いてくれた友達のところに帰ることを想像すると本当に気が滅入ります。
でも夢が破れたわけですから地元に帰りましょう。
1年なら傷は浅い。
一般社会に復帰できます。

幸か不幸かあなたは2番目でした。
これは判断が難しい。
勉強ができればプロを諦めるのも有力ですし、勉強が全然ダメならプロを目指したくなります。
あなたは院生を続けることにしました。

4)中学生になりました。中間テストや期末テストがあります。

テスト勉強する?しない?

プロになれる保証はないので勉強したいところですが、授業中に勉強していなければ全然わかりません。
数学などはできるかもしれませんが、中学から始まる英語はさっぱりなことが多いです。

プロの中にはアルファベットを読めても書けない人も多い。
小文字のqが書けないプロ棋士は結構いると思います。

5)台湾からすごく強い奴が来日しました。僕(13歳)よりも若い11歳です。Cクラスの時に対戦したのですが、負けてしまいました。
彼は一気にBクラスまで駆け上がり、今はAクラスです。
こういう人がタイトルを取るのでしょう。僕はまだCクラスが定位置。

院生を続ける?諦める?

こういうのも心が折れます。
自分がトッププロになれないという現実を突きつけられると『努力しても無駄なのでは?』という考えが湧き、囲碁に身が入らなくなります。

思い切って勉学の世界に戻るのも手ですが、勉強はさっぱりわからなくなっています。
ここで勉強の方に舵を切るのも勇気が必要です。

6)中学3年生になりました。院生ではBクラスとCクラスを行ったり来たり。まわりは受験勉強をしています。

受験勉強する?囲碁に打ち込む?

8)12月になりました。まわりは高校に進学するのが一般的です。

進学する?しない?

は、ほぼ同じです。

普段から勉強していれば高校に行って普通の人生に戻ることができます。
野球とかサッカーに打ち込んでいたのと同じですね。

実際にここでプロを諦める人はすごく多いです。

現在は高校へ行くのが一般的ですが、昔は行かないのが多数でした。

あなたは囲碁に打ち込むために高校には進学しませんでした。

7)修学旅行が院生手合のある土日に重なってしまいました。

行く?行かない?

これは簡単だったでしょう。悩む必要すらありません。

院生を経験したことがある人は修学旅行に行かない。
それ以外の人は修学旅行に行くを選択したと思います。

これは『一般社会と囲碁界の意識のズレ』ですね。

「このクラスのみんなと一緒に旅行できるのは最初で最後。修学旅行で人生の思い出を作ろう」なんていう発想は囲碁界では受け入れられません。

どんな理由でも対局日に休むと不戦敗になってしまいます。
そうすると不戦勝になった人と実際に対局する人が出てきて不公平になります。

しかも『こいつは対局よりも修学旅行を選択した』というレッテルをはがす方法はほぼありません。

練習碁の相手を断られたり、研究会に呼ばれずらくなるでしょう。

プロを目指しているなら院生手合を休むなんて言語道断です。

修学旅行が院生がある土日に重なってしまった時に頭をよぎるのは
『困ったな。どうしよう』ではなく、『行けないのか。仕方ないな』です。

『修学旅行に行けなくて助かった』と喜ぶ場合すらあります。信じられないかもしれませんが本当です。

逆にいうと修学旅行に行って不戦敗になるということはプロを諦めたと同じことです。

9)17歳になってしまいました。院生は卒業です。最後の1年はAクラスから落ちませんでしたが、最後のプロ試験(2位まで入段)は5位でした。
来年も受験するとすれば外来で受けることになります。

受ける?受けない?

一般社会に遅れなしに戻るには、ここが最後のチャンスです。

自分の人生がかかっています。
本当によく考えてください。

あなたには高卒認定試験を受けて大学入試を受けるという道があります。
高卒認定試験は難易度が低めなので1年で合格する人もいます。

1芸入試なら勉強していた場合よりもいい大学に行ける可能性もあります。
早稲田や慶応、立命館などに合格できれば一生懸命囲碁に打ち込んだのが無駄にはなりません。

『今年5位なら来年は入段できるのでは?』という意見もあるでしょう。

しかしこれはちょっと甘いかも。

院生の時は毎週真剣勝負できるという環境があります。
その上、外来は1勝分のハンデがあるのではっきりレベルアップしないと難しいでしょう。

17歳よりも若いときの院生の方が成長力では上です。
来年合格できるかどうかは運しだいですね。

あなたは来年もプロ試験を受けることにしました。

このぐらいになると、プロを目指しても劣勢、勉強に復帰するのも劣勢なのです。

10)20歳の時、プロ試験を順調に勝ち進みました。最後の1局に勝てばプロになれたのですが、負けて不合格になってしまいました。今年次点でも来年受かるという保証はありません。チャンスはあと2回です。

受け続ける?あきらめる?

これは痛い。痛すぎます。

実力的には遜色ないのに、プロになれなかった人はたくさんいます。

大一番で勝てなかったのはつらいですが、後戻りはできません。

プロを目指すしかないでしょう。

11)22歳になりました。最後のチャンスです。

受ける?受けない?

プロ試験にギリギリで落ちるのは精神的に病みます。

『毎年ギリギリなのだから最後も愛ければいいのに』と客観的に思う人がプロ試験を受けずに周囲を驚かせることもあります。

『最後のプロ試験』というプレッシャーに押しつぶされ、普段の力を発揮できない人は本当に多いです。
最後のチャンスをつかめるのは本当に稀です。

22歳、中卒、職歴ナシ、囲碁しかできない人が出来上がりました。

『夢を諦めるな』とか『結果じゃなく、努力する過程が大事なんだ』とか言ってる大人が助けてくれることはありません。

同じ人が『身の程知らずだったんだろ』とか『自分の好きなことして遊んでたんだろ。アリとキリギリスを読んで勉強しとけ』とか言ってくるのはなぜなのでしょうか。

A君も一ノ瀬君も頑張れ!

このような厳しい生存競争を勝ち抜いた人だけがプロ棋士になれます。
プロになった後も勝負は続きます。

今年の4月、七冠を制覇した井山さんはいろいろな試練を乗り越えて日本囲碁界の頂点に立ちました。
その軌跡を知りたい方はこちらを読んでみてください。

井山裕太、七冠への道~~序章~~
井山裕太、七冠への道~~第1章~~東西決戦
井山裕太、七冠への道~~第2章~~悔し涙
井山裕太、七冠への道~~第3章~~誰もが認める第1人者へ
井山裕太、七冠への道~~第4章~~井山包囲網
井山裕太、七冠への道~~第5章~~

この記事を書いた人

囲碁界の情報屋A
囲碁界の情報屋A
囲碁界に詳しい謎の情報屋。
囲碁界の情報屋Aが書く記事は怪しさ満点なので東スポのような感じで読んだ方がいい。

「1を10のように言うことはあっても、0を1のようには言わない」が口癖。

ルールを知らない人にも囲碁を楽しんでもらえるようにあえて過激な記事を書いているという噂も…
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